琴線に触れる”見たまま”の写真

今回は、Photograph#1(以下、記事参照)で紹介した写真好きの「nico(ニコ)」氏に、写真にかける想いやこだわりを語ってくれた。

静止画として一瞬を切り取って記録する写真。何のために写真に残すのか。その理由は人それぞれにある。

今回は写真に込めた意味や残し方のこだわりについて語ってもらった。

写真の1つのあり方、それは自身の思い出を追体験するための媒介であった。


Q:今日はよろしくお願いします。早速ですが、どんな時に写真を撮りに行ってますか?

定常的にカメラを持ち歩いては写真を撮ってますね。ミラーレスユーザーなので持ち運び量もたかが知れていますから、友人とどこか出かける時も基本的にカメラは持って出かけます。もちろん定期的に写真目的で出かける時もあります。


Q:なるほど。何かに目掛けてというよりは、常日頃からカメラを持って歩いているんですね。どういう瞬間に何をカメラに収めようと思うんですか?

例えば旅行とかしていて、いろいろな光景を目にしますよね。その中でも自分の琴線に触れるような光景って出てくると思います。そういった光景と出会った時に、すごくウキウキして自然とカメラを向けてますね。ディグって良曲に出会った時に「!?」となりますよね。あの感じです笑

それは風景的なものが多かったりはしますが、何かその時に発見した街角や物でもいいし、人でもいい。その時だけの発見や自分の注目した物を写真に残します。自身のポートフォリオサイトであるAzulを見ていただければわかりますが、被写体は様々にバラエティ富んだラインナップになっています。


Q:なぜ、定常的に気になる光景を見つけては写真に残しているんですか?

多分、貧乏性なんだと思います。自分が見た光景やその時に感じた感覚や気持ちって、例えば旅行写真として残している人は多いと思うんですが、大部分は記憶の中になっていて、ふわっとしか思い出せないものや、忘れていってしまっているものも多いと思うんですよね。

久しぶりにカメラを持たずに旅行に行った時に、すごく後悔したんです。せっかく良い時間を過ごしているのだから、なるべくその時の光景や当時の気持ちをできる限り鮮明に残したい。残さないと勿体無い。という思いから写真に残すようにしてます。ある種、思い出に浸り散らかしたい自分の究極の自己満足かもしれません。


Q:風景写真に見えるようでも、その中で特定の被写体に注目していることが多いように思えますが、何かこだわりがあるんですか?

自分の記憶とより強く結びつけるためのこだわりです。良い風景を眺めている時って、意外とその見えている中の特定の物事に注目していることが多いんですよね。ただ単に風景写真として残したものよりも、光景の中で特に自分が気になったものにフォーカスをして写真に残すことで、「良い景色だった」では終わらない思い出の復元ができるんです。その時に思ったこととか、気温とか、匂いとか、空気感とか。

なので単焦点カメラを好んで愛用しています。単焦点カメラは視野が広くないので、撮りたいポイントに焦点を当てるために自分が動く必要がある。良い景色だからとりあえず撮るのではなく、自分から意味を持って撮りに行く必要があるので、記憶と強固に結びつく写真を残せます。単焦点カメラの醍醐味です。


Q:なるほど、すごく面白い。あえて的を絞って撮りに向かうことで、その被写体を媒介にして記憶にアクセスできる写真になると。他にも意識していることはありますか?

見たままの光景を残したいので、躊躇せずに加工はします。例えばとある写真を確認して、「もっと青かったな」と思えば青味を足します。あくまで見たままを再現して、懐かしみたい、その時の追体験をしたいので、記憶に残る色味を再現するように加工はしますね。そのほうが写真自体に当時のストーリーが残る気がします。


Q:あくまでも“見たまま”にこだわる姿勢、とても興味深いです。他には構図の面でも工夫をされていたりしますか?

構図は割とその場のフィーリングですね。構図は知識やセンスも大事だと思いますが、やはり巡り合わせな気がしています。

とはいえ様々な見せ方のインプットはしていました。大学時代は四国にいたので、大塚国際美術館などアートの土壌が近くにあり、よく通っては日々良質なインプットをさせてもらってました。また、小さい頃は親にいろんな美術展に連れていってもらっていたので、構図をしっかりと勉強した訳ではないのですが、自然とイメージが浮かぶようにはなりましたね。あとは、音楽のアートワークもすごく参考になるので、よく構図を真似して練習してました。


Q:幼少期からの良質なインプットが効いているんですね。ちなみに写真に興味を持ったのはいつ頃からでしょうか?

カメラを持ち始めたのは大学2年生の時ですね。友人に誘われて写真部に入りました。当時は特段強い興味があった訳ではないのですが、写真部が主催する写真展にいくつか素人なりに作品を展示したんです。すると見にきてくれた人や写真部の人に意外と好評をもらい、それが嬉しくてのめり込みましたね。

なので、究極の自己満足として写真を撮りつつも、やっぱり見てもらって人に何か感じてもらえるのは嬉しいことです。自分と同じものがその人の琴線に触れられるかはわかりませんが、似た光景を見た経験があるのであれば、その人の中にある懐かしい感情を思い出してもらえたら嬉しいですね。


Q:2018年に初の写真展を開催されてましたが、そういった思いからでしょうか?また、写真展からの気づきや今後やってみたいことはありますか?

そうですね。年齢的にも1つの節目ではあったので、撮りためた写真を展示して、見た人に何を思ってもらえるのかを知ってみたかったんです。高円寺にあるSUB storeさんで展示させていただきました。多くの意見をいただいたのでここでは割愛しますが、年代も生活も様々な人たちに見てもらえて、とても貴重な経験になりました。

また、大きな気づきもありました。自分で撮った写真は記憶が補填してくれて、多くのことを思い出せます。ただ、お客さんから見ると写真は一瞬を切り取った画像なので、よりその世界観を伝えるためには写真自体の魅力は半分、もう半分は飾り方や空間作り、レイアウトといった要素が非常に大事だという事です。次は何かテーマに沿った上で見せ方にもこだわり、少しでも多くの人の琴線に触れられる写真展ができるといいなと思っています。

写真としては、特段大きな目標を掲げる訳ではなく、このまま順調に自分が見てきた貴重な光景を残し続けられてらいいなと思っています。誰よりも贅沢に思い出に浸り続けられたら、これ以上ない幸せだと思います。


こだわりを持って見たままを残す。写真を媒介にすることで、より鮮明な思い出にアクセスして、当時を追体験できる。

写真にも様々な意味があると感じさせられるインタビューとなった。

いつか開催されると期待する次回の写真展で、彼の写真を前にして、当時の思い出や感じたことを語らう日を迎えられることを切に願う。

Photograph:nico

深い霧の先へ/涙と決意

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