レトロに宿る独特な汽空域

1人のクリエイターが作り出す色褪せたノスタルジックな世界観。

紆余曲折の末、縁あって出会った世界だと語るのは、pick up music#5(以下、記事参照)で紹介した、レトロなチップチューンを生み出す「あひるひつじ」氏だ。

本当はバンドがやりたかった。

だけど違った素敵な世界に出会った。

コミティアを中心に積極的に活動し、多くの支持を受けるあひるひつじ氏が語る「レトロな世界の裏側」。

質問に対して、実直に素直な気持ちを語ってくれたインタビューを紹介する。


Q:お忙しい中でお時間を割いていただき、本当にありがとうございます。まずは普段の活動内容を教えていただいてもよろしいでしょうか?

普段はチップチューン風なレトロミュージックとドット絵の制作を行っています。イベントとしては、主だってはコミティアを中心に参加させていただいており、これまで制作した3枚のアルバムをうちうひつじ横丁で販売しています。

特にコミティアは多くの人に触れ合う貴重な機会なので、本当に楽しいですね。楽曲に対する感想をたくさんいただけるので、励みにもなりますし、今後の創作意欲に繋がります。


Q:「沈んだ街」や「ひとりぽっちの水族館」など、独創的なタイトルの楽曲が多いですが、普段はどのようなところから着想を得て制作をしているのでしょうか?

普段、街を歩いていて見かける錆びれたものや色褪せたものなど、少し廃れた感じが好きなんです。前に元ゆらゆら帝国の坂本慎太郎さんが「人類が絶滅して誰もいなくなったデパートでかかっている音楽を作りたい」って言ってて、すごく共感したのを覚えています。

「沈んだ街」とか「ひとりぽっちの水族館」もそう。街とか水族館は人のために作られたはずなのに、もう誰もいない、本来の意図で人に届いていない、だけどそこに存在し続けている。そんな色褪せた存在が何か愛おしくて、まだ何か意味を持とうとしている気がして、そんな場所にチップチューンのような荒い粒でできている音楽がすごく合う気がしています。もともとlo-fiなものが好きなんですが、チップチューンは究極のlo-fiだと思いますね笑


Q:錆びれた世界に響く音楽、ノスタルジックな心を揺さぶります。ちなみに楽曲についても、チップチューンテイストでありつつも、ベースやドラムなどオルタナティブな要素も使われていますが、こだわりがあるのでしょうか?

チップチューン風味のインストと題してはいますが、正直自分でもジャンルとかわかってない状態で制作しています。バンド楽器の要素も組み込まれているのは、実は自分の音楽のルーツは今でもバンドミュージックにあり、本当はバンドがやりたかったという思いが強いのかもしれません。

もともと高校生の頃からバンドを組んでいて、自分たちで見様見真似でマスロックの楽曲を作ったりしていました。そして大学に入って軽音楽サークルに入ったのですが、自分がやりたい音楽性に共感してもらえることは少なかった。ざっくり言うと、自分はあまり激しい音楽はしたくなかったんです。心地よい音楽をバンドという好きな形態でやることが理想だったのですが、音楽性の合うメンバーを集めることや活動を作り上げていくことの労力が大変だと思った。だから1人で作れる音楽を作ることにしたんです。言ってしまえば、逃げたんです

なので、バンドが好きという気持ちが根底に残っているので、自然とそういった要素が入ってしまうのだと思います。


Q:なるほど、とても意外でした。正直な気持ちをお話いただき、本当にありがとうございます。そういった経緯から、現在のチップチューン風味のレトロミュージックにたどり着いた、と。

1人で作ろうと考えてから、いきなりチップチューンに手を出したわけではありません。実は最初はボカロ制作をしていました。ギターとかベースは生音で撮って、ミックスして作っていたのですが、1人でやるには機材にも結構なお金がかかりますし、正直そんなにウケが良かったわけではないんです。なので、更に逃げてみたらようやくここでチップチューンにたどり着いた、という感じですね。

もちろんチップチューンやレトロミュージックは拘れば奥が深いですし、決してジャンルとして浅はかに見ているわけではありません。自分が無理なく挑戦できたのが、たまたまそれだっただけ。多くの制作者にリスペクトもしています。今となってはとても興味深い、好きなジャンルの1つです。毎日楽しんで制作をしています。冒頭でお話した、錆びれた世界観が好きな自分の感性とも相性が良かったと思います。


Q:もともとバンドミュージックというルーツを持ちつつも、紆余曲折あって現在では違う形の音楽を制作している。あひるひつじさん自身が創作自体を楽しんでいて、かつ、このレトロな世界に少なからず魅せられているからなのかなと思いました。今後はどのような活動をされていく予定でしょうか?

今はこれまでの楽曲をリアレンジしたアルバムを制作しています。これまではチップチューン界隈での反応も少なからず意識した制作をしていましたが、リアレンジではじぶんのルーツであるバンド要素を多分に盛り込んだ作品に仕上げる予定です。今まで好んで聴いていただいていた方々に気に入っていただけるか不安もありますが、まずは自分が満足する音楽を制作することかなと思いましたので、自信を持って作品として仕上げて、感想を楽しみにしたいと思っています。

また、本を読んだりや文章を書くことも好きなので、そういった仲間と一緒にエッセイ集の制作なども進めていけたらと思っています。


本当はバンドがやりたかった。

本人は逃げた先で縁あって出会ったと語る。

ただ、多くの人を楽しませている音楽を作っていることは事実。

また、その裏側にある自身の色褪せた過去があるからこそ、レトロなのに儚げな汽空域を生み出せているのではないかと感じた。

いつまでもそんな錆びれた世界のファンでありたいと思う。

色褪せた世界を切り取るチップチューン

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