10分間、圧倒的に自分の空間を作れる。
そう語るは、pic up music #7(以下、記事参照)で紹介した醤油顔ナンバーワンラッパー「Weapon The Rhyme」氏。
馴染みがない人も多いHip Hop。
その世界に魅せられ、ラップでグルーヴを生み出す彼に、その魅力について語ってもらった。
ラップを通じて多くの人を楽しませたいという原動力の他に、誰しもが実は一番わからない「自分」という存在を見つめ直しているようにも思えた。

Q:Weapon The Rhyme。ひょんなきっかけで出会ってくれてありがとう。ラッパーの友人は初めてでした。普段はどんな活動をしているんですか?
こちらこそ、貴重な機会をありがとう。普段はIT企業の営業として仕事をしているんだけど、社会人ラッパーとして時間があれば今でもステージに上がってます。高校からずっと「Weapon The Rhyme」という名義でソロラッパーとして活動していて、その頃からお世話になってる渋谷UNDERBARというクラブでのイベントをメインに出演しながら、その他も呼んでもらったイベントにゲストで出たりもあるかな。最近は情勢的にもだいぶなくなっちゃってるけどね。
Q:「Weapon The Rhyme」としては、どのようなテーマで?
これはすごくシンプルで、自分の思うことを表現するだけ。それが一番リアルだからね。心の底の本当の言葉じゃないと共感してもらえないし。
あとは目の前の人をとにかく楽しませたいという思いでやってます。ただ言葉を並べるだけでもいいかもしれないけど、やっぱりライブとなると見てくれてもいるわけだから、動きも意識してパフォーマンスをしてるね。本音のリリックとエキサイトなパフォーマンスが「Weapon The Rhyme」を好きになってくれるポイントだと思うかな。

Q:Weapon The Rhymeの楽曲からは本当にリアルな思いを感じます。いつからラップを始めたの?何かきっかけが?
もともとDJから始めたんすよ。音楽は好きでいろいろ聴いてたんだけど、とある日に中学の時に通ってた美容師さんが1つカセットをくれて。これを聴いてまず衝撃だった。30分間、音楽が途切れないわけですよ。普通1曲って3〜4分じゃない?そのいくつかの曲が途切れなく繋がっていて、30分間ずっとのめり込んで聴いてて、ここでDJという存在を知ってまずDJを始めたんすよ。だから最初は「DJ Weapon」だった。
Q:最初はDJだったんだね!そこからきっかけがあってラッパーへ転身?
そうそう。高校に入ってラッパーへ転身するきっかけが2つあった。
高校の時に渋谷を歩いてたら、変な兄ちゃんにクラブに誘われたんだよね。そんでそのクラブに行ってみたら、そこでラッパーとDJがフロアをめっちゃ盛り上げてて衝撃を受けた。俺もそこでやってみたいっていう憧れが生まれた。これが1つ目。
もう1つも高校の時なんだけど、知り合いのラッパーに頼まれて、とあるイベントでそのラッパーと一緒にDJとして出たんですよ。ただ自分は目立ちたがり屋だったんで、そのラッパーに「俺もラップできるし?」って言ったら、そのステージでラップもやることになって…笑。実際ラップなんてやったことないからすげえ緊張したんだけど、さっきまでラッパーの後ろでDJ回してた奴が急にマイクもって前に出てきてラップかますもんだから、会場がめっちゃ盛り上がってくれたんだよね。クラブなんて怖い面の人たちばっかなのに、みんなほんと盛り上がっててすげえ嬉しかった。そんなこんなでラッパー「Weapon The Rhyme」が誕生したという感じっす。

Q:実際に初めてラップをして盛り上がってくれたなんて、本当に熱い経験だね。そこから「Weapon The Rhyme」が生まれるのは納得。ちなみに、そんなリアルなメッセージを込めた数々の楽曲の中でも、個人的に一番好きな曲は「Do It Myself」です。何かこうラッパーとしての自分のスタイルへのプライドと現実との葛藤のように聞こえるというか。
ストラグル感としてはまさにそんな感じ。これは18歳の時に作った曲で、ぶっちゃけ皮肉を込めた曲なんだよね笑。当時、横浜でハーコーな感じでやってた憧れのラッパーがセルアウトして、マジョリティを意識してラブバラードとか出すようになってショックを受けた。そんな彼に対しての皮肉。「俺は自分の求めるHip Hopを貫いて、あんたを必ず超えてやるぞ」って感じ。自分のスタイルを貫くと決めた決意になった出来事だね。この曲を一番好きって言われたの初めてだわ。ありがとう笑。
Q:なるほど。自分の内側で何かに葛藤するというか、内向感があるように聞こえたのはそういうことだったんだね。今は社会人として、企業で働きながら活動しているけど、当時と何か変わったこととかはありますか?
ここはいろんな葛藤があったね。本気で人生をラップにかけようと思ってたんだけど、トップシーンを追いかけているうちに天井が見えたというか、ラップで食うことはできるかもしれないけど、じゃあ家族ができた時にラップで食わせられるか?と考えたら、まずは人生をしっかり生きようと考えて就職したんだよね。大学に行かせてもらったこともあるし、ビジネスマインドを持ってラップを続けようって決めた。音楽としての成功よりも、人としての成功を選んだって感じかな。
その選択自体は良かったんだけど、やっぱり就職するとスケジュールを合わせられなかったり、深夜イベントに出られなかったりして、なんだか自分がHip Hopのトップシーンから大きく外れてしまった感があった。それはそれで切なかったんだよね…。

そんな時に「ビジネスマンラップトーナメント」というイベントを開催する真野さんに出会った。これは本当に心が救われる出会いだった。
ビジネスマンラップトーナメントは、主催の真野さんが「草野球のラップ版を作りたい」って作ったイベントで、仕事帰りのサラリーマンを中心に「ただただラップが好きな人」が集まってラップバトルを繰り広げる場所。みんな全然ラップうまいわけじゃないんだよね笑。だけど本当に心のそこからラップが好きで、しっかり相手をリスペクトしながら、思いを込めたラップでバトルして会場を沸かせてる。
真野さんとの出会いやこのイベントとの出会いを通じて、Hip Hopが少しずつ民主化してることに気づいて、音楽で食うことがトップシーンなんだっていう固定観念がなくなったんだよね。社会人だからって関係なく、誇りを持ってラップを続ければいいんだって思えた。彼らとの出会いは本当に良かったね。
Q:ラップを心から楽しむ人たちと出会って、社会人ラッパーとしての「Weapon The Rhyme」があるんだね。ありがとう。そんな「Weapon The Rhyme」が考えるラップの面白さを教えてもらってもいい?
OK。これは”やる側”と”聴く側”の側面があるんだけど、”やる側”からいくね。ラッパーにとってのステージは、圧倒的に自分の空間を作れる時間なわけ。だいたいイベントの持ち時間は10分くらいなんだけど、この10分間ひたすらに自分のことだけを話しているのよ。そんな時間って生活の中で他にある?ないよね。その10分間は何の話をしてもいい。地元の話でも、失恋の話でも、野望の話でもいい。そこにロジックとかそんなのは関係ない。ただただ、思ってることを伝えられる時間なんだよね。
そしてお客さんがいて、共感して反応を返してくれる。そこに生まれるグルーヴ感が最高なんだよね。ただ、やっぱりこのグルーヴを生むには言葉だけでは難しくて、そこに音楽とラップという表現方法があるから会場に伝わるし、お客さんが気持ちを返してくれているのが伝わる。ラップは、サラリーマンにとってのパワーポイントみたいなもんだね笑。

じゃあ”聴く側”の面白さはと言うと、”共感”と”理想”かな。”共感”はシンプルで、そのリリックに共感して楽しむこと。言葉は楽器と違って細部までメッセージを伝えられるから、共感を呼びやすいと思うんだ。
もう1つの”理想”というのは、非現実世界を楽しむという観点だね。Hip Hopはもともとアウトレイジやストラグル感がカルチャーとしてあるから、ドラッグのディーラーやっているやつとかがHip Hopで表現するわけ。生きてた世界が違うような奴らのバックグラウンドとか経験を聴くことになる。その内容は多くの人にとっては非現実的で、スリリングな映画を見て楽しんでいるような感覚かな。
Q:圧倒的に自分の空間を作れる…か。確かに自分のことを10分も話すことってないね。そこに共感が生まれて、グルーヴが会場を包む。絶対に最高の景色だね。最後に、今後の「Weapon The Rhyme」を教えてください!
正直、決めてないんだよね。「Weapon The Rhyme」としてどうありたいかは常に探してる感じ。なぜ続けているのかという観点でいくと、言葉やパフォーマンスでいろんな人を楽しませるラップというものが、自分のできることとやりたいことが重なっていた唯一のコンテンツだっただけ。何かを決めるわけではなく、思うままにやっていく。「Weapon The Rhyme」はそういう場所なんだと思う。

自分のできることとやりたいことが重なっただけ。
そう語る彼が満足そうに見せた笑み。
ラップというものが彼自身にとって、なくてはならないものであることが伝わってきた。
彼はラップで自分自身を表現しながら、その度に今の自分を見つめ直しているようにも思えた。
そんな彼の次のパフォーマンスを楽しみに待つことにする。

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