日本に愛されるHip Hopを作る。
そう語るは、pic up music #8(以下、記事参照)で紹介した「藤本潤」氏。
Hip Hopと呼ばれる領域でラッパーとして活動する彼。
しかし、その活動の域はラッパーのそれではなく、ジャンルの壁も超え、音楽とは違ったベクトルへも活動を広げている。
すべては音楽への回帰。
Hip Hopの新しい形を作らんとする彼の原動力と、試しては学ぶ実直な歩みに迫ると同時に、尊敬の意をも覚えるインタビューとなった。

Q:今日はインタビューを受けていただいて、本当にありがとうございます。まずは活動状況などを教えていただけますか?
こちらこそ、ありがとうございます。ラッパーを名乗ってはいますが、音楽以外もいろいろやってるヘンテコラッパーです。
これまではラッパーとして楽曲制作を進めながら、クラブハウスのイベントに出演したり、自分でも仲間達と2ヶ月に1回のペースでライブを企画したりと、ライブを中心に精力的に動いてきましたが、2020年のCOVID-19を機会にライブを完全に無くしました。現在は本名の「藤本潤」名義で楽曲制作は続けていますが、その他にもプロデュースを学んだり、デジタルでの発信を学んだり、別業界の方と関わったり、仲間達と本当にいろんなことをやってます。

Q:COVID-19の影響でライブが難しい期間に、別の動きをしているという感じでしょうか?
いえ、ライブができない期間だから別のことをやっているわけではありません。もともと自分にとってライブは、アーティスト活動のあくまで1つでしかありませんでした。仲間達と2ヶ月に1回のペースで自主企画を7年間も制作し続けたり、渋谷WWWでワンマンライブを開催したりと、精力的にライブに勤しんでは来ましたが、ライブってすごく良いものだけど結構パワーを使うので生産性は高くないと思っていて、他の活動に時間を使いたいとずっと思っていたんです。そんなタイミングでCOVID-19の影響が出たので、これを機にあえてライブを打ち止めたという感じですね。
自分には日本におけるHip Hopのメジャーシーンを作りたいという目標があって、それをラッパーとして引っ張ることに固執しておらず、あらゆる角度から立役者になれたらと思っています。例えばライブ以外の伝え方、つまりデジタルでの発信なども今は学んでます。インディーズはライブからのし上がるみたいな固定観念をなくしたい。個人が発信できる時代なので、別の方法が絶対あるはずだと思っていて、そういう手法やプロデュースという面での関わりも、自分にとってはラッパーでライブすることと同じくらい大切なことなんです。

Q:なるほど。ラッパーで活動することに注力しているわけではなくて、日本でのHip Hopシーンを作るためにできることをやっていく、というのが「藤本潤」の1つのスタンスなんですね。
その通りですね。例えば瓢箪職人さんのお手伝いをしたこともありました。瓢箪ってどこで何に使われているかなんて知らないですよね?でも瓢箪作りを仕事にしている人がいて、必要としている人がいて、使われ方がある。それを一緒になって瓢箪作りに触れて、自分なりにメディアなどの媒体を通して発信していくんです。一見、Hip Hopとは何の関係もなさそうに見えますが、伝え方という点では大いに参考になる部分があって、最終的に音楽のためになればいいと思っていろいろなことに首を突っ込んでます。
でもそうやっていろいろなことに首を突っ込んできたおかげで、その時々で必要な人に助けてもらって、メディアとか、アートとか、撮影とか、エンジニアとか、多くの人との繋がりができました。何かをクリエイティブしろと言われれば、コミュニティからメンバーを引っ張ってきて、おおよそ作り出せるネットワークはありますね。

Q:本当にいろいろな活動をされているんですね。それだけ多方面への活動をしてまで学ぶ原動力というか、Hip Hopへの想いというのはいつ頃から?
音楽の入りがそもそもHip Hopだったんですよね。小学校とかで一定数の人が音楽にハマりだすじゃないですか。ロックの人もいれば、ポップスの人もいる。そんな中で自分は友達にオススメされたりして、たまたまハマったものがHip Hopだった感じです。当時はKICK THE CAN CREWとかですかね。そのまま中学〜高校と上がっていって、R&Bとかで海外のHip Hopシーンとかもハマって聴いてて、高校生の時には純粋にアーティストになりたいって思ってました。
少し他のラッパーの方々と違ったのは、ポップスや昭和歌謡も好んで聴いてたことですね。学生時代って結構1つのジャンルに偏ってハマる人が多いと思うんですけど、自分の場合は入りこそHip Hopで最もハマっていたジャンルではありましたけど、森山直太朗とか、aikoとか、よく聴いてましたね。今だと星野源とかも普通に好きです。
自分はみんなが左を向いてたら、右を向きたくなる性格なんです。その頃って自分がハマったジャンル以外を馬鹿にするような人も結構多いじゃないですか。同族嫌悪とまでは言わないですけど、自分は他ジャンルの良いところを積極的に勉強して、Hip Hopに取り入れるべきなんじゃない?と思って過ごしてましたね。そういった意味で人と違うことをついしてしまいがちというか、今のヘンテコラッパーに繋がっている気がしてます。自分を音楽の虜にしてくれたHip Hopへの恩返しが心の中にありつつも、人とは違った路線で攻め続けているのが「藤本潤」なんでしょうね。

Q:天邪鬼という言い方もあるかもしれないけど、でも人と違ったレールを作り出せる人はなかなかいないから、個人的にはとても貴重な人に思えます。高校卒業後はアーティスト活動のために東京へ?
そうですね。まずはラッパーを目指そうと思って、高校卒業後に上京しました。4年制の専門学校に通いながら、そこで出会った人たちとBefore Sleepin’ Showerというチームを組んで、制作とライブを繰り返してましたね。当時こそ、2ヶ月に1回のペースで自主企画ライブの開催も続けていたわけでして、自分はまとめる立場でいろいろやってました。自由奔放な人たちが多いので、まとめる側の大変さは嫌というほど経験できましたね。
あと大切な気づきとしては、遊びとビジネスは違うということを身に染みて体感しました。当時はそれなりの映像を撮ったり、ライブの集客を叶えてはいましたが、それだけでは足りなかった。やりたいものをやっているだけではダメだということですね。プロデュースするとか、ニーズから逆算して考えるとか、ビジネス面での協業を叶えるとか、そういう頭も必要なんだと思って悶々としていた時期ですかね。ここからは本格的にラッパー以外の視点にも注目し始めたと思います。
自分自身、この頃は「jumLiv」という名義で活動していて、仲間達とHip Hopをやっていましたが、Hip Hopを日本のメジャーシーンに持ち上げていくためには、Hip Hopの枠を出ていく必要があると思った。そういった心境の変化に門出の思いを込めて作ったのが「YES」という楽曲です。名義も本名である「藤本潤」に変えて、学びながら社会や文化を捉えた活動をしていこうと決めた時でした。
現在、プロデュース面でも関わっている「Transistory Project」は、クリエイティブ以外のことも強く意識したクリエイティブ集団です。これまでの経験で、みんなが左を向いている時にしっかりと左を向く重要性も体感したので、視聴者のニーズから逆算してコンテンツを考える色味も強くあります。
恋のすれ違いを描いた「恋すれ」プロジェクトは、現在2作品を公開していますが、1話完結の作品を10作品ほどまとめる予定でして、あらゆる角度からの恋のすれ違いを描いています。これも1つ、視聴者のニーズに対するアプローチであり、デジタル上での宣伝を学ぶ実践の場でもあり、作品としての要素実験の場でもあります。Hip Hopの枠を出たクリエイティブかつビジネスチャレンジな活動であり、ここでの経験をHip Hopに持ち帰れたらと考えています。
Q:本名「藤本潤」を名乗ったこと自体やTransistory Projectでの実践などから、Hip Hopの枠を超えて多くを学び、目標としているHip Hopと社会の結びつけを本気で叶えてやろうという決意を感じます。最後に「藤本潤」としては、これからHip Hopでメジャーシーンを作っていくにあたり、ぜひ大切にしたいことを教えてください。
日本でしっかりHip Hopが愛される状況を作りたいので、日本流のHip Hopの形を見つけたいと思っています。
自分は宇多田ヒカルも好きなんですが、「Fantôme」というアルバムが海外で愛されています。宇多田ヒカルが英語のアルバムを作った時は海外であまり反響を呼べなかったみたいなんですが、この「Fantôme」は洗練された美しい日本語の歌が多く反響を呼んでいます。つまり、日本が大切にしている文化や価値観を届けるということが、日本国内に対しても海外に対しても価値だと思うんです。
日本のHip Hopの形ってまだ確立していないと思っていて、日本のラッパーってやっぱりトップシーンの海外のHip Hopの要素を取り入れようとしている人が多い気がしてるんです。日本の美しさとか、日本人の楽しみ方を見ているラッパーって少ないと思うので、自分はそこにこだわっていきたい。それこそ和楽器なんてまさに、日本人が文化として愛してきた楽器なわけですので、積極的に取り入れるというのも1つの大切な要素だと思ってます。そうやって日本人が求める日本のHip Hopの形を見つけて、Hip Hopが愛される基盤を作れたらと思っています。

ブレない夢に向かう中で、現実も知り、学ぶ姿勢を見せる「藤本潤」。
人にはない感性と嗅覚でアプローチする彼の先にあるHip Hopシーン。
俄然興味が沸くと同時に、日々信じて歩き続ける彼には尊敬を覚える。
日本で愛されるHip Hopに心を掴まれるその日を待望する今日この頃だ。

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