「自分にしか見えない景色を音にしたい」谷本 早也歌 インタビュー

日常の情景が思い浮かぶアンビエント音楽とエレクトロニカを、色彩豊かな感性で表現する音楽家、谷本早也歌。

彼女が創作を始めたきっかけ、制作における心の向き合い方、楽曲そのものに込めているイメージまで。その音楽活動における想いを丁寧に語ってくれた。

彼女のこれまでの歩みと音楽への真摯な想いについて、是非読んでみてほしい。

インタビュー:斗澤 将大
文:竹内 達也

「この音を鳴らしてみたい!」



— 本日はお忙しい中、貴重なお時間を頂き有難うございます。早速なのですが、谷本さんが音楽での創作を始めたきっかけからお聞かせ頂けますか?

はい。そもそも私の両親が二人とも音楽をやっていて、母親はピアノの先生で、父親は趣味で昔バンドをやっていて。小学生の頃は家族全員で童謡でのコンクールに出場して全国で優勝もしていたり。音楽とずっと関わってきたという環境でした。その後、中学生の頃に父親からお下がりのパソコンを貰えることになって、それがきっかけでインターネットなどで色々な音楽を聴くようになったんです。


ご家族全員が音楽をされているだけでなく、かなり早い段階から自分で音楽を調べるようになったのですね。

そうですね。それまでは家庭での影響もあってクラシックばかり聴いていたのですが、高校生くらいになるとテクノなどの音楽や、Aphex Twinといったアーティストを聴くようになって、その時に大きな衝撃を受けて。クラシックとは全然違うこの電子音楽という音を鳴らしてみたいと思うようになったんです。

作曲自体は幼少期からピアノなどで少し経験があったのですが、電子音楽の鳴らし方なんて全くわからないという状態でした。たぶんパソコンで作れるんだろうなぁなんて思っていじっていたら、持っていたMacのパソコンにGarageBand(音楽制作ソフト)のアイコンを見つけて、そこから手探りで曲を作り始めたというのがきっかけですね。

また、チップチューンというジャンルはYMCKさんを聴いて初めて知って、そのとても可愛い音にも衝撃を受けたんです。「この音すごくいいなぁ。鳴らしてみたいなぁ。」というきっかけも大きいです。全てが初めて聴く音楽であるという衝撃だったり、ワクワクが止まらないという感じなんですよ。

— クラシックの分野から電子音楽の世界に興味が行ったことにとてもびっくりです。そこからはどういった経緯を辿られたのですか?

まず大学時代なのですが、元々子供が好きだったということもあり、保育関係の学校に通っていました。保育だったら音楽にも子供にも関われるし、美術や体育だったり、色々なものにオールマイティに関わって就ける仕事だと思ったんです。ただ、やはりまだ将来的なことは全然見えてなかったというのも事実で。私が通っていた学校は少し特殊で、午前中しか授業が無くて、午後は自由に自分探しの時間に充てていいという方針だったんです。
学校での音楽実習では週一で童謡を作って発表したり、家に帰ってからは自分の曲を打ち込みで作ったりという生活をしていました。

— その頃はどういった音楽を作ることを目指していましたか?

大学生の頃は「子供と音楽」という言葉が頭の中にあって、最終目標として「みんなのうた」やEテレなどのそういった媒体で、子供たちに自分の音楽を聴いてもらえるようになりたいという夢がありました。

また、「童謡」ってすごいなって思っていて。誰もが知っていて、あんなに短くて簡単な言葉で、しかも色々な世代の人が知っていて。そういう音楽を作りたいなと当時は思っていましたし、今もそういう気持ちがあります。でも、当時はそのことを考えるよりも知識を習得することが楽しくて、とにかく作っていたという思い出の方が大きいですね。

「憧れている方からのお声がけにびっくり」


— 確かに童謡という今でも語り継がれている歌に、自身の曲が入ることは本当に光栄ですし、すごいことですよね。そういったところから現在の活動に至った経緯もお聞かせ頂けますか?

はい。大学生の頃に手探りで進めていたDTM(パソコンでの音楽制作)での知識が、個人では完全に行き詰まってしまったことがあったんです。その時にたまたま大学からすぐのところに、DTMを専門としている音楽スクールがあるのを見つけたんです。その場所が今後の活動における大きなきっかけになりました。始めにそのスクールでの体験授業に参加したのですが、その時点で私には自身の独学で作ったオリジナル曲があったので、それを先生に聴いてもらったんです。そしたら、初心者の方が来ると思っていた先生がびっくりしちゃって。

その教室は音楽スクールとライブハウスを一緒に経営していて、またレーベルを持っている場所でもあったんです。その先生から「面白い曲を作る子がいる」とライブハウスの店長さんにお話が入って、ライブ出演のお話を初めて受けました。そこから色々とお話が広がっていきました。

— とても面白いきっかけですね。そこから先はどうなったのですか?

DTM教室で足りない知識を補った後も、引き続き制作を進めていました。その当時、私は「Her Ghost Friend」という音楽ユニットが大好きで、Twitterにてユニットのお二方をフォローしていたのですが、そのお二人の両方が只の一般人の私にフォローを返してくれたんです。私はGarageBandで制作している様子をTwitterで投稿していたのですが、Her Ghost Friendでの作曲家であるDJ Obakeさん(現在のレーベルオーナー)から作った曲に対しての反応を頂ける機会もあったんです。

その後、大学卒業を控えてもまだ進路に悩んでいたのですが、そのDJ ObakeさんからDMを届いて、「新しくレーベルを立ち上げるのだけれど、もし曲があったら是非送ってほしい」というお話を頂けたんです。

憧れている方からのお話にとにかくびっくりでした。その後、現時点で完成している2曲をお送りしたらすぐにお返事が来て「合格です!」とお返事を頂けました。そういった経緯で全くの無名からCDを出すことになったんです。

そのご縁もあって大学があった愛知から、卒業後に上京してきました。ただ音楽だけで生活するのではなく、上京してから1年間は音楽活動をしながら保育園の先生として働いていました。子供たちが好きなことは変わりなかったですね。

— とても興味深いお話です。子供たちが好きである軸はぶれなくて、でも電子音楽に魅せられている辺りもとても面白いですね。

そうですね。やっぱり学生時代に聴いていた音楽の感覚は忘れられなくて、作り始めた時の記憶は今でも残っています。

「私はこういう音が好きなんだ」


— 音楽一家であっても「作る」ということに向かわない人も多いと思うのですが、興味から自然に創作の方向に向かったのですか?

はい。「この音を自分で鳴らしてみたい」という想いが強かったんです。「私はこういう音が好きなんだ」という気持ちが高校生の時に明確に浮かびました。「自分でも鳴らしたい!」という一心ですね。

–「やってみたい」という興味が谷本さんの大きな原動力なのですね。まずはどういった音作りを目指しましたか?

初めて入れたプラグイン(ソフト音源)は、Magical 8bit Plugというプラグインでした。使い始めたら本当に気に入ってしまって、この音ばかりを鳴らしていましたね。チップチューンというジャンルも後から知ったのですが、自分が作った音はこのジャンルに当たるのかなという感じです。

そのこともあって、1stアルバム「まほうのおんがく」の音はピコピコサウンドで、私が大学生の頃から作ってきた曲を中心に構成されています。

「Labyrinth」(1st Album『まほうのおんがく』収録)

現在は多くの音楽に触れる経験を経て、エレクトロニカ・アンビエント音楽の方向性が好きだと気づいて、作る音楽はその方向性になっていますね。

「ギャップにとても苦しんだ時期があった」


— 実際にCDを作ってからはいかがでしたか?

実は個人名義での作品は100%私の意思かと言われるとそうではなくて。1stアルバムを作る際にもそうだったのですが、具体的に言うと、インストの曲に歌詞を入れてみてはどうかという提案ですね。

まだレーベルと繋がったばかりの20代初めの頃で、皆さんに意見を言いづらくイエスマンになっていたところがあったんです。

本当は歌いたくないけれど、CDを買ってくれた人がライブで求めているのは収録曲を歌うこと。そのようなギャップにとても苦しんだ時期があります。

2ndアルバムである「箱の中の少女」については、レーベルと私個人との意見の調整を試みて、レーベルの意見半分・私の意見半分という作品になりました。

「PALPITO」(2nd Album『箱の中の少女』収録)

そのうちに、この作品は「本当に自分が作りたいものなのか」ということについてより本気で向き合うようになりました。3rdアルバム制作に当たっては思い切って「自分だけで作りたいです」という旨の希望をレーベルの皆さんにお話しました。その結果「好きに作っていいよ!」とお返事を頂けて、今回のアルバムでは私自身の理想に沿って制作が出来ることになったんです。

— アーティストによってはお客さんに向けて曲を書く人もいれば、谷本さんのようにまずは自身の書きたいものを第一に作るという人もいると思います。その姿勢にとても共感しています。

有難うございます。やはり販売している以上、売り上げのことを考える時期もありました。レーベルの方からも、「お客さんと谷本さんの中間に位置する曲を作る方が良いのではないか」と言われたことがあるんです。その意見もとても分かるのですが、私は100%お客さんに寄るか、100%自分に寄るかのいずれかしか作れなかったんです。

その結果、中間を目指す曲を考えすぎて、一度曲を全く作れなくなった時期がありました。自分以外の誰かのことを考え始めると本当に作れなくなってしまって。その時は本当に苦しかった。その後自身と向き合う時間を多く過ごすうちに、徐々にまた音を鳴らせるようになってきました。

— お話を伺っていると、谷本さんはレーベルを通して売るというよりは、自分のために作る方が良くて、それを好んでくれる人は必ず居て。まずは自分の音が良いと思えるように循環して楽しむのがベストな気がしています。

そうなんですよ。それをやりたくて「i my me mine」という100%私だけで制作する活動も並行しています。この名義ではNanoloopというシーケンサーソフトを使って制作をしています。

最近ではこのNanoloopを使った制作とDTMを使った制作の分け目が無くなってきて、良い意味で二つの要素が合わさりつつあります。

i my me mine「kurashi」


— 本当に多くの苦労がありましたね。

そうですね。初めてレーベルと繋がった時に「音楽を売らなきゃいけない」という商業的な意識みたいなものが初めて入ってきて、とても悩んだんです。そこから色々なことを考えて、いろいろな音楽を聴いて、いろいろな知識を吸収して、今に辿り着いたんです。ここから先は新たなスタートだと思っています。

「自分にしか見えない景色を音にしたい」


— もう少しだけお話をお伺いしたいのですが、色々な音楽を聴いてきた上で、その中でもエレクトロニカというジャンルを好まれたのには何か理由があったのですか?

私はあまり言葉に乗せてメッセージを届ける曲というものはなくて、どういう風にいつも自分は曲を書いているのかと思った時に、風景や思い出だったり、自分にしか見えない景色を音にして表現しているんですよね。

そもそも音自体が好きで音楽を作り始めたので、歌を歌うというよりも、音で曲を書いているという感じなんです。どちらかというとインストの曲の方が好きで、歌モノが乗っていてもバックトラックに集中して聴いてしまいますね。音で表現をしたいという気持ちが大きいんです。

表現が難しいんですけど、優しい音楽が好きなんですよね。たぶんピアノの音だったり、今作曲で使っている音というのはきっと幼少期の自宅で慣れ親しんだ音だと思うんです。「好きな音で歌わせている」という感覚ですね。例えば、次のアルバムでも自分が歌うのではなく、鳥の鳴き声に歌ってもらっている曲もあったりします。そうやって自分が好んで作った音が、たまたまエレクトロニカだったのかもしれません。

— なるほど、風景や思い出を音で表すということにとても共感します。

有難うございます。自分だけに見えているからこそ、自分にしか書けない曲がある。そう自分を肯定しているところです。日常で切り取った一部を曲にしているという感じですね。

「アルバムのコンセプトは『水』」


— 貴重なお話を有難うございます。最後に新しく発表されるアルバムについてお話をお伺い出来ますか?

はい。今回のアルバムのコンセプトは「水」です。もっと言うと「水」から連想するもの、雨や涙、その思い出だったりも含めて、広いテーマを表現したアルバムを出そうとしています。元々は「雨の日」というテーマでした。そのため、今回のアルバムの発表日は6月に設定してあるんです。(※予定)

実は、i my me mineでも「雨の日」のコンセプトでアルバムを作ったことがあって。雨の日に私の曲を聴きながら歩いて、いつもの景色が違った風に見えたら良いなと思って作っていました。

— このお話を知ってから、新しいアルバムを聴いて貰ったら反応が大きく変わりますね。

確かにそうですよね。私は言葉で伝えることは出来ないけれど、音で伝わったら良いなと思っています。今回のアルバムで自分の想いが100%の作品を世に出せるので、6月のアルバム発表が私自身も待ち遠しいです。


取材を終えてからも、彼女が歩んできた道のりと音楽におけるその真摯な姿勢に、私自身大きな感銘を受けている。「本当に自分が作りたいもの」と向き合うこれからの活動が楽しみでならない。ぜひ一度彼女の楽曲を聴いてみてほしい。きっとその色彩豊かな音の世界観に魅了されるに違いない。


谷本早也歌 HP:https://sayakatanimoto.wixsite.com/imymemin
Twitter:https://twitter.com/sayaka_tanimoto







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